『ゆきどけ』

この作品は、『いつもの日曜日』の制作を経て、「アニメーションってありかも」と思い、初めて自分ひとりで制作したアニメーション作品でした。当時、大学の課題では実写の作品を作っていたのですが、実写の場合、どうしても自分以外の人手が必要になり、民生品のビデオの画質にも満足できなかった事から、時間さえかければ一人でも理想の画作りを実現出来る可能性のあるアニメーションに魅力を感じはじめたのです。

技術的に未熟な部分が多く、いまだに観るのが恥ずかしい作品ではあるのですが、「風景から窓までカメラが近づき、窓に人影が現れる」というワンカットはとても気に入っています。このシーンは制作する何年も前から頭にあったものでした。
先日、僕の作品集を観てくれたオタワ国際映画祭のフェスティバルディレクター、クリス・ロビンソンさんから、そのカットについて「私が最近観たなかで最も美しく、最も目を引いたイメージのひとつでした。あなたは生の逃げゆく脆さを、見たところシンプルなイメージのうちに完璧に捉えていますね。」という、とても光栄なご感想をいただき、感激しました。

山村浩二さんが僕の作品をはじめて観てくれたのもこの作品で、造形大学のアニメーションの合同講評会の翌日、「山村さんが褒めてたよ」という情報をいろいろな方から聞き(自分は欠席していた)、当時、あらゆるコンペに落ち続けていた僕は「いったいどこを良い感じ、改善するとしたらどこだと思いますか?」という質問を思い切ってメールで投げかけたのでした。返ってきた答えを見て、「この人は自分の作品を完全に理解してくれている」と驚き、感動した事を今でもはっきりと覚えています。クリスさんからのメールにも同じ感覚を抱きました。


そんなわけで、観るのが恥ずかしいと言いながらもやっぱり思い入れがあり、自分の原点でもあるこの作品、新作『HAND SOAP』との共通点もあり、やはり上映会でお客さんと観るのがとても楽しみです。